『迸る熱』 ロシュ×アンジェ
恋愛END後・恋人同士・甘苦
手首を掴んで引き寄せ、人目を逃れて路地裏に誘い込むのは一瞬で事足りた。
射し込む光を避けて暗がりまで引っ張り込み、薄汚れた煉瓦塀に小さな身体を押し付ける。
両手を掴んで壁に縫いつけ、逃げ場を封じた。
「……ロ…っ」
彼女が何か言いたげに口を開いた瞬間、そこを狙って唇を塞いだ。
初めから遠慮も躊躇もなく舌を絡め吸い付いて何もかもを奪う。
手を離しても抵抗は無かった。
それでも身体は密着していく。両腕を壁に付き、その中にアンジェリークを閉じこめて拘束する。
アンジェは弱々しくロシュの服を掴んだ。
「……ん、はぁっ……んんんっ」
苦しげに息を吐く彼女を逃さないとばかりに追い掛け、顔の角度を変えては熟れて弾力のある唇に吸い付く。
首筋を押さえ込み、指は服から覗く素肌を辿る。鎖骨を親指で撫でると、びくりと身体が弾んだ。
目を閉じることはできなかった。
赤く火照った頬や苦しげにぎゅっと目を瞑るその睫毛を見つめて、深く深く舌を侵入させる。
舌先で口内のありとあらゆる場所を刺激し、絡め取っては唾液を混ぜ合わせた。
唇が離れてもまた奪われる。
その合間に洩れる吐息がロシュを熱くさせる。
キスを止めるのにどうしたらいいのだろう。
もうロシュには判らなくなる。
だって仕方ない。
待ち合わせの場所に立っていたアンジェが他の男と談笑しているのを見てしまって、脳神経が焼き切れるかと思った。
彼女は道を訊かれたから答えただけだと言っていたが、男の魂胆なんて見え透いている。
優しいアンジェリークはどんな相手だろうと無下にできないのだろうけど。
俺のものって声を大にして叫びたい。
こんなにも思いが募って苦しいくらい。
だからどうか拒まないでと願いながら、その頬をそっと撫でた。
【終わり】
初出:2010/06/01