響也×かなで
「はい、チョコレート」
「おう、サンキュ」
少し緊張気味に差し出した箱を、何でもない顔をして受け取る。
それだけ?と思わず上目遣いに見上げれば、響也は眉根を寄せてそっぽ向いていた。
「響也……?」
その険しい表情は、あまり目にすることない種類のものだ。
不機嫌とも違うし、苛立ちとも違う。
顔はしかめっ面でも声は優しいし、刺々しさもない。
表情を掴みかねてじっと見詰めていると、その横顔に赤みが差した。
「な、何だよ?」
ようやくかなでに顔を向けて、ぶっきらぼうに一言。視線は合わないままで、どこかかなでを避けている。
普段から愛想のいい方ではないが、今日はやけに対応が四角四面的だ。
「ひょっとしてチョコレート嫌だった?」
一歩近付いて上目遣いに顔を覗き込むと、彼は慌てたように仰け反った。
「うわっ、な、ち、違ぇよ」
「それじゃ、どうしてそんな嫌そうな顔なの?」
単刀直入に切り込むと、彼は言葉に詰まって黙り込んだ。
「響也?」
黙っている間にも顔の赤みはどんどん増していく。
────あれれ?
いつもと違う反応に、かなでが小首を傾げる。
「あー、もう、だから!」
響也が耐えきれなくなったように叫んだ。
「お前からチョコ貰えて、嬉しかったんだよ!」
ったく、何言わせんだ────
響也が口元を押さえて呻く。
かなでの顔も、まるで伝染してしまったかのように真っ赤に染まった。
【続く】
初出:2011/02/14
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