律×かなで
毎年、母親と分担でチョコレートを作っていた。
父親や祖父、そして幼なじみにあげるため。
世間では愛を告白する日という意味づけをされているようだが、本人は言うに及ばず、同性の友達にも「告白」目的でチョコレートを作る者は皆無だった。
友達同士で交換したり、憧れの先輩や先生への贈り物が大半を占める。それにしたって、「本命」というほど大袈裟なものではない。
ただし、如月律と小日向かなでの場合は少し事情が異なった。
幼なじみというのは便利なものだと思う。
そして、ちょっと苦い。
決して父や祖父と同じ「好き」ではないのに、寸分違わぬチョコレートと包装を準備する。
「本命じゃないよ」と、周囲にも自分に対してさえ言い訳を用意していた。
今年は違う。
もう人目を気にすることもないし、片想いでもない。
少し値の張るチョコレートを使って作ったトリュフを、品の良い包装紙とリボンでラッピングした。
きっと彼も気に入ってくれる、と思う。長いつきあいで、好みの傾向と対策くらい把握済みだ。
彼が星奏へ進学する前も、微笑んで受け取ってくれていた。
互いの想いを確認し合った今年は、もっと喜んでくれるのだろうか。
いや、でも。期待しすぎて落胆する羽目に陥っては、目も当てられない。
かなでの思考は迷路へと迷い込む。
卒業を間近に控えた三年生は、この時期殆ど学校に出てこない。
それが救いのようで、けれど渡すのはかなでが寮に戻った後になるから、焦らされてしまっているようで少し辛い。
こんな日に限って時計はなんて遅く感じるのだろう。
渡す瞬間を思うと、今から胸がどきどきと高鳴ってしまう。なのに、下校はまだまだ先なのだ。
机に突っ伏して溜め息をついていると、前に座っていた響也が鼻で笑うのが聞こえた。
「いいじゃねーか、チョコレートを差し出されて『貰う理由がない』とか大ボケかます律を見なくて済むんだからよ」
シャーペンで背中を突くと、「痛ぇよ、かなで」と非難が上がるが、「口は災いの元」と言い返して、再び溜め息の海に沈み込んだ。
【続く】
初出:2011/02/14