柚木×日野

誕生日記念・卒業後・ほのぼの

 

「だから、さっきから言ってるじゃないですか」
言い訳を積み上げるのも何だか疲れてきた。
店内の窓際、奥まった席につく。目の前に座る人は、優雅に紅茶を飲む。
しかし先程から一言も発しない。無表情のまま目線さえ合わせようとしなかった。
「だいたい、柚木先輩だって去年までやってたことだし……」
一方的に怒るのは不公平だ、と思う。

「そりゃあ、中間テストで二週間も逢えなかったのは寂しかったですけど」
反応が無いのに諦めて、ぽつりと本音が洩れた。

ちん、と澄んだ音がしてカップはソーサーに戻される。
柚木が顔を上げ、髪をかき上げた。
その顔は穏やかで、先程までのぴりぴり火花が散りそうな不機嫌さは消え失せている。

「うん、まぁ、及第点かな」
「え?」
急に態度を変えた彼にいちいち驚いていたら、付き合ってなどいられない。
それは判っていても、ついていけずにきょとんと柚木の顔を見つめる。

「俺が聞きたかったのは、逢えなかった理由じゃなくて、お前の本音」
にっこりと柚木が微笑む。それはそれは綺麗な微笑だった。

なんだ自分だって寂しかったんじゃない、という反論は辛うじて声にならず、そのまま飲み込まれて消えた。




【終わり】

初出:2009/06/18

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