志水×日野

恋人未満・ほのぼの

 

「……眠そうだね? 志水くん」
「はい……昨晩、譜読みしてて……あまり寝てなくて……」

朝の挨拶もそこそこに、志水は腫れぼったい目元を擦る。
一度痒みを感じてしまうとつい手が出てしまう。
よく姉妹から長い睫毛が羨ましいと言われるが、今は鬱陶しささえ感じる。
そんな志水を日野が優しく窘めた。

「あまり目を擦っちゃだめだよ?」
「……はい」

気落ちして俯く志水の頬に、日野の指が触れた。
細くて暖かな指先が何かを摘み上げる。

「……あ」
「睫毛、ついてたよ」

悪戯っぽく笑う飴色の瞳が間近に見えて、どきりと心臓が高鳴った。
触れられた箇所が熱く火照る。

日野は特別だ。
大勢の生徒が行き交う中でたった一人、志水の視線を奪う。
明るい髪の色もキラキラ光る瞳も赤く熟れた唇も白い肌も吐息も全て、何か甘くて柔らかい特殊なもので出来ているように思えてくる。

それをそのまま伝えたら、目の前のこの人はどんな顔をするだろう。
―――日野先輩を食べてみたいな
きっとどこも甘いんだろうな、なんて。

きっと真っ赤に熟れたトマトみたいな顔になるんだ。

想像したら可笑しくて、眠気なんて一気に吹き飛んでしまった。





【終わり】

初出:2010/01/10

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