吉羅×日野

誕生日記念・卒業後・恋愛

 

「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします! そして、誕生日おめでとうございます!」

何でもない年始の挨拶だが、日野の口から吐き出された途端に何か別の特殊なもののように聞こえるから不思議なものだ。
彼女が元旦ではなくわざわざ今日を選んで晴れ着を纏い、綺麗に髪を結い上げ薄く化粧を施していることも決して無関係ではないだろう。

「あけましておめでとう。こちらこそ宜しく。……よく似合ってる」
挨拶の最後に付け加えた言葉にも彼女は過剰に反応した。
頬から耳、首もとに至るまで真っ赤に染め上げ、日野は困ったように俯く。
両手を忙しなく組み合わせて恥じ入る姿は、それだけで吉羅の感受性を揺り動かすのに十分だった。

「さ、乗りたまえ。裾に気を付けて」
胸に沸き上がった感情は、ひとまず保留する。
日野家の玄関先に停めた車に彼女を促し、助手席のドアを開けた。
彼女が乗り込んだのを確認してドアを閉め、自らは運転席へと回り込む。

今はまだ、何もかもが始まったばかりだ。
年月日もそうなら、二人の関係もそう。
だから、例えば抱きしめたいと思っても何一つ表に出すことはない。

「まずは、初詣だな」
「はい、楽しみです」
「……おみくじが、かな。それとも甘酒かな?」
「もう、そんな事言って。それだけじゃないですよ!」

からかってみると、ぷうと頬を膨らませてむくれる。
予想通りとはいえ素直すぎる反応に笑いを噛み殺していると、日野が小さく呟いた。

「……これからもずっとこうしていられるように、神様にお祈りしに行くんですから」

感度の良すぎる聴覚を呪いたくなるのはこういう時だろうか。
彼女は時折、こうして天然素材の爆弾を投下していく。全くもって油断できない。
エンジンをかける前で良かったと吉羅は心底安堵した。





【終わり】

初出:2010/01/03

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