『センチメンタル』 神城×ヒトミ

恋愛ルート直前・片思い・切ない

 

ふと視線を上げると、神城先輩がじっとこちらを見つめていた。
まっすぐな目と真正面から出くわして、内心たじろぐ。

放課後の図書室で偶然顔を合わせた。
そのまま互いが読んでいる本の話題になって、読書スペースに移動した。
対面に座り、目の前に綺麗な先輩がいることに緊張しながら、いつの間にか読書に熱中していたらしい。

「あ、あの?」
読書スペースは周囲を天上に届きそうな本棚に囲まれ、人影もまばらだった。
思うより大きく声が響いてしまって、慌てて口元を押さえる。
「ああ、ごめん。ヒトミちゃんって、思ったことがすぐに顔に出るんだな、って」
「そ、そんなにおかしな顔してましたか?」
ひそひそと声を潜めながら頬を押さえた。
こんな間近で顔を観察されていたなんて、まるで気付かなかった。そしてそんな失態をしでかした己が不甲斐なくもある。
いくら体重が減ってきたとはいえ、まだまだ努力の途中だ。
綺麗な綺麗なこの先輩の目にほんの少しでも可愛く映りたいと願うのは欲張りなのだろうか。

こちらの心境を知ってか知らずか、神城先輩は面白そうに微笑んでいる。
「おかしくはないよ。でも読んでいる本が楽しいって顔に出ていたから、つい眺めてたんだ。ごめんね」
────よく言われます、思ったことが顔に出るって」
困ったように眉を寄せると、神城先輩は「どうして?」という表情を作った。
「だ、だって、こんな思考がバレバレなんてやっぱり恥ずかしいし色々と困るっていうか」

「ヒトミちゃんはそれでいいんだよ」

その時、神城先輩はとても静かだった。声を荒げるでもなく語気を強めるでもなく、淡々と言葉を紡いでいたにすぎない。
声を低く潜めながら吐息と混じるほど密やかな口調だった。

けれど、思わず息が止まるかと思うほど強く私の胸に響く。

「ヒトミちゃんはそのまま、変わらないでいて」
長い睫毛が動いて綺麗な目が私を見る。
どきりと強く心臓が鳴った。
それは強い痛みを発して、胸に苦く広がる。

何故かは判らない。
何も言えなくなるほど、切ないと思った。




【終わり】

初出:2016/02/24

LastUpdate: