『心機一転』 華原×ヒトミ
恋愛エンド後・甘々・誕生日記念
昨年の誕生日は、最悪だった。
胸の内深く秘めていたはずの本性を計らずも暴露してしまった相手から、プレゼントを貰った。
あいつは律儀に部屋まで押しかけ、インターフォンを押し、面と向かってラッピングされた箱を差し出したのだ。
正直、かなり意外だった。
普通この手の女なら敵前逃亡よろしく、箱だけを下駄箱や郵便受けに入れっぱなしにするのが定石だろう。
素直に感嘆しかけ……しかし、同時に警戒した。
何を企んでいる?
オレを陥れようとでも思っているのか?
受け取った時の笑顔は完璧だった。
一欠片のヒビさえ入れずに取り繕った。
中身は、好きな匂いの香水で……高校生が購入するには少し高い値段のもの。
それを、オレは持て余していた。
いっそたたき割って、捨ててしまおうかとも思った。
それでも捨てきれない自分に、更に苛立った。
あいつの顔は、緊張で少し強張っていた。
頬に浮かんだ笑みも、不自然だった。
それでも、真正面から立ち向かおうと、オレから目を逸らしたりはしなかった。
そんな彼女を認められずに、ただ不快な熱が腹の底に溜まっていく。
香水はクローゼットの奥に放り込んだ。
忘れてしまおうと思って、それでも忘れられずに。
まるで喉の奥に刺さった棘のように。
彼女に対する誤解が解けるのは、その後の話。
いや、誤解どころの騒ぎではない。
本性どころか、心の全てを明け渡し、身体中全てを奪い尽くされたようなものだ。
オレの中は既に空っぽで、何も残っていない。
隙間を埋めるかのように膨らんだのは、彼女への想いだ。
彼女が明るく笑うだけで、暖かなものがわき水のように溢れ、オレを満たした。
桜川ヒトミが、誰よりも一番大切な相手となって、当該の香水は日の目を見る。
今年こそ、最高の誕生日にしたい。
しかし、現状はそう易々と安楽を与えてはくれない。
センター試験なんていう厄介な行事を迎え、受験生は多忙な日々を送る。
この日、1日だけでもと彼女を呼び出すことだけには、何とか成功した。
当然のように勉強会という名目も用意しつつ。
せめて、昨年よりはいい思い出にしたい。
そう願いながら、待ち合わせ場所に立った。
白い息を吐き出しながら、彼女が現れる、その至福の瞬間を待ち侘びて。
【終わり】
初出:2011/01/17