七海×かなで

「あのっ、……あの、その……」
「七海くん?」

駅前のコンコースにある銅像前に向き合う高校生二人。
制服がそれぞれ違うが、共に楽器ケースを抱えており、一目で演奏家だと窺わせる。
男子高生は大型のチェロケース。
女子高生はそれよりは小形のヴァイオリンケース。そして、カバンの他に小さな手提げの紙袋も持っている。

「きょ、今日、小日向さんと会えて、とても嬉しいです。そ、それで……」
「うん、渡したいものがあるの」

小日向かなでが、おどけたように肩を竦める。
途端に七海宗介の顔が真っ赤に染まった。
それを見て、押さえきれずにかなでが笑い出した。

「ちょ、小日向さん!」
「ご、ごめんごめん! なんか、逆みたいで」
「逆?」
「うん、七海くんがチョコレート渡すみたい。私が渡す側なのに、可愛いんだもん」
「……あまり嬉しくないです」
「ごめんね」

拗ねたように上目遣いになる七海の顔は、やっぱり可愛らしいとしか思えない。
かなでは笑いを収めると、背筋を伸ばし、改めて袋を差し出した。

「はい、ガトーショコラを作ってみたの。お口にあえばいいのだけど」
「あ、ありがとうございます!」

震える手で紙袋を受け取り、七海はまるで宝石でも扱うかのような慎重さで抱える。

「勿体ないです、オレのために……手作りなんて」
「何言ってるの」

再び、かなでが笑い出した。
くすくすと可愛らしい笑い方に、七海は思わず見とれそうになる。
だが、彼女が投下した爆弾の威力は、それだけでは済まない。

「だって、本命チョコなんだよ? 手作りじゃなくてどうするの?」

少し悪戯っぽい上目遣いで見られ、七海の顔はこれ以上ないというほど真っ赤に染まった。


【終わり】

初出:2011/02/16