王崎×日野
誕生日記念・恋愛・デート
「ごめん、本当に、ごめん」
王崎が腰を折って頭を下げる。両膝に当てた手が震えている。
あまりに真剣で、土下座までしそうな様子に日野は慌てた。
「い、いえ、あの! 別に気にしてませんから」
「ちょうど腰の曲がったお婆さんが、横断歩道を渡っていてね。点滅し始めていたから背負って送ってて」
ああ、仕方ない人だなぁと日野は苦笑した。
常々気の優しい人だとは思うけれど、加えて度を超したお人好しでもある。困った人を放っておけない。
例えば音楽科の某先輩などが同じ発言をしたら間違いなく裏があるのではと穿った見方をしてしまうが、彼は天然で真正直だ。
「大丈夫ですよ。映画は次の回で観ましょう」
「日野さん……」
「それまで、ちょっとお茶しませんか? あそこのお店が美味しそうだなって、待ってる間に思ってたんです」
観に行く予定だった映画は始まってしまったけれど、それくらいは仕方ない。
いつもは時間を守る人だから、何か事故でもあったのではないかと気を揉んでいたが、こうして無事に会えたのだから杞憂に終わったのだ。
「ありがとう。それじゃ、行こうか」
優しく笑って、王崎が日野の手を取る。
日野は思わず声を上げた。
「あ……」
「ご、ごめん。……拙かったかな」
彼の人柄を表すようにその手は大きく優しかった。
「い、いえ! あ、あの、嬉しいです」
「それじゃあ、行こうか」
少しアクシデントもあったけど、仕切直してデートを始めよう。
【終わり】
初出:2009/10/17
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