『消毒』 鷹士×ヒトミ

一週目ルート・両片想い・ほろ苦

 

「痛……っ」
資源ゴミに出す雑誌をまとめていたら、紙片の端が指を掠めた。
スパっと音がするほど鋭利で爽快な切れ味をみせ、雑誌のページが凶器となった。
「お兄ちゃん?」
隣でチラシや新聞をまとめていたヒトミが顔を上げる。
ぎゅっと眉根を寄せた心配そうな表情に、鷹士の方が痛ましくなってしまう。
「ああ、大丈夫、大丈夫。舐めときゃなおるって」
切った指を舐めてみせたら、ヒトミの目がきっと釣り上がった、ような気がした。

「……どこが大丈夫なのよ! もう、お兄ちゃんこっち!」
「え? え?」
「ほら、ソファ座って」
強引に腕を引っ張られ、リビングの中央に置かれたソファまで連行された。
半ば押し倒されるように座らされ所在なげな鷹士と対照的に、ヒトミは忙しなく動き回る。
溜息をつく間もなく、薬箱を抱えたヒトミがスリッパの足音と共に現れた。

「ほら、手、出して!」
ヒトミの釣り上がった目がギラギラと鷹士を睨み、妹溺愛歴18年を数える鷹士は一も二も無く指示に従う。
「紙って結構深く切れちゃうんだから、舐めてたらダメじゃない」
ソファに座った鷹士の前に両膝を付き、ヒトミが指の治療を始めた。
鷹士の顎に、ヒトミの前髪が触れる。

「……なんだったら、ヒトミが舐めてくれればいいのに」
そしたら兄ちゃん、どんな怪我だってたちどころに治っちゃうぞ!

この一年ですっかり細くなった指が触れるたびに、喉の奥が苦く重いもので塞がれるような気分だった。
それを悟らせないように、わざとらしいくらい明るい声を出してみる。

「何、言ってんの。唾液には雑菌が多いんだから、傷口舐めるのはダメって若月先生も言ってたよ」
多すぎるくらいの消毒液を指先に擦り込まれ、「痛い痛い」と喚いてみたけど取り合ってもらえなかった。




【終わり】

初出:2009/08/09

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