東金×かなで

珠玉ENDその後・恋愛・友情

 

言わないで今はまだ』東金Side


「おい、小日向見なかったか?」
昼食後のラウンジは疎らながら幾人かの寮生が集う。
残暑厳しい昼下がりに休憩するならここが一番適している。
東金が一歩踏み込むと、如月兄弟が見えた。
無遠慮な東金の一声に特段驚いた顔もせず、如月律が読んでいた本から顔を上げる。
「小日向? いや、ここには居ないが」
「あいつなら部屋に戻ったんじゃね?」
如月弟は携帯ゲーム機を操作しながら適当な返事を寄越す。
「……そうか」
「それで、東金。小日向を捜してお前は女子寮に入り込むつもりか?」
東金の相槌を拾い上げたのは、いつの間にか東金の背後に立っていた支倉だ。
気配を悟らせず背を取った上に挑発するような発言だった。
「流石に俺もそこまでしねぇよ」
東金は苦笑する。
面白がっているのか何なのか、彼女は探るように東金の出方を伺っていた。
小日向の友人と言うが、まったく正反対の性質らしい。
頭の回転が早く油断のならない相手だと認識し、支倉に向き合う。
「一つ質問するが、小日向は部屋に戻ってるのか?」
「いや、今はもうこの菩提樹寮には居ない」
「どこに行ったか知っているか?」
「質問は一つなんだろう? これ以上は答えられないな」
飄々と笑ってみせるが、目は少しも笑っていない。挑み掛かるように東金を見ている。
あまり衆目を集めたくない東金はさり気なく彼女を廊下に促した。
否は無いのか、支倉は大人しくそれに従う。
「そう言うって事は知ってるって事だな。俺に答えられないのは、小日向とグルか」
東金が腕を組んで指摘してみせると、彼女はにやりと笑った。
「それなら小日向が見付からない理由も判るだろう? 神南の色男」
「判りたくない、というのが正直な所だな。正直もう時間がない」
「へぇ……」
小日向の友人と腹の探り合いをするつもりはない。挑発に乗るつもりもない。東金は表情を改めた。
その正直さが意外だったのか、支倉は驚いたように目を丸くしている。
「お前もそれだけ真剣と言うことか」
「無論」
鋭い視線が交錯した。
彼女は普段気紛れに人を振り回してのらりくらりと振る舞っているようだが、こと小日向に関してはぐらかそうものなら牙を剥く素振りを見せる。
東金としても小日向に関して譲るつもりはない。
「なるほど。……そういえば、小日向は飲料水の買い出しに行くと言ってたな。近所のコンビニだろ」
暫くの後、支倉が顔を背けて呟いた。
「あ、礼なんか言うなよ。小日向を神戸にやるつもりは髪の毛先ほどもないが、馬に蹴られて死にたいわけでもない。彼女を泣かせたら報復は覚悟しろ」
「……ああ、心得てる」
東金が低く返答し、靴音を響かせて遠ざかった。


立ち去る背中にちらりと目線を投げ、ニアは顎に手を当てる。
「我ながら臭い台詞だったな。しかし、我が友はどうも人をそういう気にさせてしまうらしい」
くすっと面白そうに笑ったが、それを見る者は周囲に居なかった。




【終わり】

初出:2010/03/28

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